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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)548号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人久保田(略)の上告理由第一点ないし第七点について。

国税滞納処分における公売による不動産所有権の移転に関しても民法一七七条の適用あるものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に照し明らかである。(昭和二九年(オ)七九号同三一年四月二四日第三小法廷判決参照)しかして、原審の確定した事実によれば、原判決目録記載の不動産は、もと上告人の所有であつたが、国税滞納処分として公売に付され、楠本進がこれを落札してその所有権を取得し同人のため所有権取得の登記がなされたところ、その後、上告人の再調査の請求により右公売処分は取消されたが、右公売処分の取消にもとずく所有権の回復については上告人は登記を経由しないでいるうちに、楠本は、本件不動産を被上告人阿部泰典に譲渡し、次いで同被上告人の手を経て、被上告人野崎容子及び被上告人東京都が、それぞれ原判示のごとくその所有権を取得し、その登記を経由したというのである。

以上の事実関係の下においては、たとえ前記公売処分の取消により、上告論旨主張のごとく遡及的に本件不動産の所有権が楠本から上告人に復帰したと仮定しても、(本件公売処分の取消は、上告人の再調査の請求にもとずく取消処分であつて、上告論旨の主張するごとく、右公売の当然無効なることを宣言した趣旨でないことは原判示上あきらかである)その所有権の回復について登記を経由しなかつた上告人は、右公売処分取消の後に、本件不動産の所有権を譲受けた被上告人等に対抗し得ないことは勿論である。けだし本件不動産が、前示公売により、一旦楠本の所有に帰した事実がある以上、楠本において前記のごとく、公売処分の取消により上告人に所有権が復帰したのち、さらに、被上告人阿部に譲渡したのは、民法一七七条の関係では、あたかも楠本がこれを上告人と被上告人阿部に対し、いわゆる二重譲渡をした場合と異なるところはないからである。論旨引用の昭和一七年の大審院判例は以上の判断と抵触しないし、同四年の判例は本件と事実関係を異にし本件に適切でない。されば右と同趣旨に出た原判旨は正当であつて論旨は理由がない。

同第八点について。

記録を調べても、原審において、所論のごとき擬制自白のなされた事実を認めることはできない。論旨はとることができない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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